”いらない保険 ~生命保険会社が知られたくない「本当の話」~”(2019年3月18日第1刷)を読みました。

著者は
保険相談室 代表の後田亨さん。後田さんが代表理事の
オフィスバトンさんのfacebookページにて4月11日に3刷と書いておられました。おめでとうございます!
まず始めに書いておきます。後田さんとは友人(すみません!)ですので、ひいき目があります。ご承知おきのうえ以降をお読みください。
今回の本は共著ということです。医療情報学・医療経済学が専門の永田宏さんのことは私はまったく知りません。
いつも通りアウトプットとしていくつかポイントを引用させていただいての所感を書くスタイルです。当然ながら引用部は私の独断と偏見によるものです。
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■はじめに
■序章 その保険、本当に頼りになるの?
■第1章 最強の保険は健康保険
・医療費が払えずに自己破産したひとを、あなたは何人知っていますか。少なくとも、筆者の親戚や友人・知人のなかに、医療がもとで自己破産したひとは皆無です。 p34
・実は、現役の医師の多くが「どんな病気でも、社会復帰や家庭復帰までの医療費は50万円で済む」と言っています。 p37
・我々としてはせめて、健康保険だけでも維持できる方向を模索しなければなりません。 p47
この本は「筆者(N)」=永田氏、「筆者(U)」=後田さん、このように本文の流れで明記されている部分はありますが、基本的にどちらが書かれたのか一般にはわからない体裁です。ただ、これまで後田さんの本を何冊も読み、web記事も多く読み、メールでも喧々諤々のやり取りをさせてもらっている私ですので、どちらがどちらの文章か明確にわかります。
最初に引用した3文はすべて永田氏です。冒頭の著書写真をご覧ください。後田さんは「永田さんの知見や見解については、反論できる知見を持たないため、横流し(?)状態です」と書かれています。
順番に書いていきます。
1つめです。
自己破産者の件、
こちらのサイトの信頼性が何とも言えないので申し訳ないのですが、元データを探す時間を作れなかったので許してください。2018年で自己破産者は7万人超(ちなみに2003年は24万人超!)。原因(複数回答)で「病気・医療費」は第4位の20%超です。
もう1つリンクです。
「生活保護」に関する公的統計データ一覧 国立社会保障・人口問題研究所のデータです。11の「保護の開始理由別被保護世帯数の年次推移」で生活保護の開始理由を確認すると、傷病が理由が2000年代に入ってからは40~20%台です。それ以前の30年ほどは70~50%台です。
生活保護=自己破産ではありませんけれど、傷病が原因で困窮した人を知らないのはN(母数)の小さな範囲でしかないからです。私だって身内も含めて知り合いのなかで「医療がもとで自己破産したひとは皆無」です。だからと言って、この書き方は専門家としてどうなのかと強い疑問を感じます。
2つめです。
現役医師の「多く」とは何を示しているのでしょうか。永田氏が関わる医師の方々に直接この「50万円」を確認したのは何人でしょうか。
私は医師からFP相談を受ける機会がこれまで何件もありました。数十件ではありませんが、高額療養費や傷病手当金など健康保険の仕組みについて具体的な額を詳細に把握していた医師は多くありません。また、ここでの50万円の根拠も非常におおざっぱです。直前に事例を1つ挙げておられるとはいえ、直感的な数字ではないかと感じるほどです。
私もSNS(ツイッター)を使い始めたころ、安易に「多く」という表現を使い、その根拠を匿名の業界人から執拗に責められた経験があります。その際の「多く」とは私の身近にあった当時20~30を母数とした数字での「多く」でした。それでも日本全体で考えれば、その限りではないと勉強になりました。
3つめです。
社会保障のなかで「健康保険だけ」が維持されても何も解決になりません。社会保険でいえば介護・年金も同列に扱わねばなりませんし、この3つでいえば現状で維持が困難に感じるのは健康保険と介護です。その意味合いから健康保険を維持という表現を使っておられるのであれば何も問題を感じなかったのですが、この本での永田氏の全体の論調からは公的年金保険について明るくないのがひしひしと伝わってきますので、公的年金との比較の面からだと私は読み取りました。この本では不要な文章の1つです(すみません
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■第2章 がん保険の「ストーリー」にだまされるな
・がん患者は増えているのか? p59~
■第3章 介護保険に勝る現実的方策
・その保険、30~40年後に使える? p102~
■第4章 貯蓄・運用目的の保険はいらない
・国の制度をどう考えるか p130~
・年金の年齢による線引きへの疑問 p143~
この3つの章の全文が後田さんの文章というわけではありませんが、引用の項目部分は後田さんに間違いなく、安定の内容で安心して読めました。
第2章のがん患者の件はデータの背景、第3章での健康寿命については統計方法、第4章では公的年金の信頼性をきちんと書いておられ、さすが後田さんです。
※ 追記
p102~の執筆者が後田さんではなかったことがわかりました。
言い切っていながらお恥ずかしい…
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■第5章 結局、「保険」をどうすればいいの?
・死亡保険金はいくらにするのか? p156~
・就業不能保険はどうする? p162~
・気をつけたい「独立系FP」 p173~
ハイライトはここです。
以前の本「
生命保険は「入るほど損」?!」で私が原稿協力させていただきました遺族年金につきまして、当時は1ページでしたけれど、今回は2ページです!
以前は会社員バージョンだけでしたが、今回は自営業者と母子家庭・父子家庭も掲載されています。あくまでも目安とはいえ、ぜひぜひ参考にしてもらいたいです。
そして、2つめの「就業不能保険」の件、ここは後田さんにもつっこんでおきます。
具体例を出しておられるアクサダイレクトの商品をこの記事では評価しませんが、後田さん自身(60歳!)の試算で月9300円という例だけ取り上げておられます。
同じ内容で30歳なら月4860円、35歳で月5360円でした。しかも保険期間は例と同じ70歳までですから非常に大きな保障だと感じます。若い人の場合の事例も比較として取り上げてもらいたかったです。
3つめの独立系FPのところは、、、悩ましいですよね。私は独立系FPと名乗ることはありません。積極的に名乗っている人たちを目にする機会がありますが、そういった方々と一緒に見られたいと思えないからです。
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■終章 保険はあなたの人生を保障してくれない
■おわりに
・実際、政府は「年金支給開始を70歳に引き上げよう」と言い出していますし、「75歳から」の声もチラホラ聞こえ始めています。 p185
もうおわかりですね。ここは永田氏の部分です。仮にも医療経済学を専門とされているならこの発言はいただけません。
「年金支給開始を70歳に引き上げよう」と政府は言い出していませんし、「75歳から」の声もチラホラ聞こえ始めているとすれば報道の見出しを先入観で受け取ってしまっているだけのことで、明らかに誤ったとらえ方をしておられます。このあたり、ご興味お持ちの方はこのブログのカテゴリ「
ねんきん」をぜひご参照ください。
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最後に。この本のタイトルは「保険はいらない」ではなく「いらない保険」ですからね!
生命保険について保険会社や代理店の方々とは異なる切り口で情報と接してみたいという意味合いにおいてはお勧めできる本です。
ただし、特に永田氏の部分(初めて後田さんの文章を読む人にとっては違いが分からない…)は注意しながら読んでいただく必要があります。本当にそうなのか?と疑問を持つことが大事だと感じます。もちろんすべての文章に信頼性が欠けるとは思いません。あまりにも安定感が無いんです…(すみません
今後も私がデータ提供させていただく機会があるとすれば、後田さん1人での本に限ろうと今回決意しました次第です。
とりあえず、、、後田さん、こんな書評でごめんなさい m(_ _)m
後田さんの本の感想は何本も書いていまして、前著もご紹介しておきます。
”「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由”読みました。 長文をお読みくださり、ありがとうございました。
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