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”家に帰ろう~在宅緩和ケア医が見た 旅立つ命の奇跡~”読みました。


 ”家に帰ろう ~在宅緩和ケア医が見た 旅立つ命の奇跡~”(2013年10月31日第1刷)を読みました。著者は緩和ケア診療所・いっぽの医師 萬田緑平さん。(ツイッター @ryokuhei

 1つ前の記事でも同じ萬田先生の本の感想を書いています。穏やかな死に医療はいらないでも実例はいくつも紹介されていましたが、さらに具体的で詳細な実例の経緯などを紹介されている本です。前の本は在宅緩和ケア医の考え方をつかむためとも言えそうで、この本は非常に生々しい患者さんの生と死が伝わってきまして明らかに「生」の力強さが印象に残ります。できるだけ異なる感想を書きたいと思いますので、合わせてお読みいただければ嬉しいです。

 今回もいつも通りアウトプットとしていくつかポイントを引用させていただいての所感を書くスタイルです。当然ながら引用部は私の独断と偏見によるものです。
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■まえがき

・がん患者さんならば、最後まで抗がん剤治療するというイメージを持っている人もいると思うが、決して最後までするというわけではない。結果的に最後まで抗がん剤治療をすることになってしまっただけだ。(中略)人生の最終章の一番大切な時間の使い方を家族に握られ、”死んだほうがましなくらい”の過酷な延命治療の果てに亡くなっていく。意識があるうちは家族に「がんばれ」と言われ続けてお別れもできず、また残された家族も苦痛に顔を歪ませながら亡くなっていった姿が脳裏から離れず、これでよかったのだろうかという後悔の念に苦しめられる。(p6)


 医師や家族には見分けられないのが当たり前なのかなと思います。当事者である本人がしっかりと意思表示できることがたいせつなのでしょう。だからこそ意思表示のできるうちに、方針をまわりに伝えておく必要があるのだと思います。

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■3つの願い

・一人暮らしの場合、急変があったらかわいそう、苦しんで一人で亡くなるのはかわいそうと思う家族は多い。(中略)だから本人が家にいたいと言っても、入院させられてしまうことが多い。「病院なら安心」と。病院が安心なのは本人ではなく、家族。本人にとって病院は死ぬところ。家は生き抜くところ。(p33~)


 先日取り上げました高齢世帯(世帯主が65歳以上)に占める単独世帯の割合のデータを見ても、1人暮らしの超高齢者が圧倒的に増えていく社会になっていきます。そもそも病院で逝くことが難しくなる社会になってしまうと考えることもできそうです。そんなときに、在宅緩和ケアや在宅医療がどれだけ整っているのか、どれだけ活用できる世の中になっているのか、しっかりと追っていきたいと思います。

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■嫁と姑と娘が迎えたその日

・とにかく治療にこだわるのは息子。特に長男であればなお、老いた親に決定権を与えず、ぎりぎりまで治療を望む。治療が苦しくてもがんばって生きてほしい。治療をやめて退院なんてとんでもない。「こんな状態で家に帰ったら死んでしまうぞ」と考える。以下は僕の邪推。もし家に帰ってきても、自分は仕事があるから介護なんてできない。やるのは嫁になる。そうなったら夫婦関係の調整も必要だ……。対して娘は治療に躊躇する(後略)。(p37)


 こうなってくると、実家と今の住まいの物理的な距離の問題、1人っ子同士の結婚でお互いの両親計4人のサポートが必要、なども負担が大きくなっていく要因になりそうです。明らかにそんな家族の在り方が増えていっていますし、これから爆発的に増えていく団塊の世代による介護需要を吸収できるだけの人材供給が間に合うのかなども特に都市部では悩ましい課題になっていきそうです。
 ちなみに私も長男ですが、たぶん治療にはこだわらないと思います(たぶん…


・フジさん(91歳)は、すごい勢いでやせていく。見る見る小さくなっていった。(中略)体が軽くなれば、フジさんのように残されたわずかな力でも動ける。亡くなるとき、体は残された力を察知して、自ら効率よく動ける大きさに縮んでいくのだと思う。(中略)点滴のチューブなど、動きたい体には邪魔以外の何ものでもないだろう。死の摂理を、医療が邪魔してはいけない。(p54~)

 
 「上手に枯れていく」実話をたくさん知ることができるのもこの本の特徴です。人の身体というのはうまくできていると感じます。今の私は燃費が悪くすぐにお腹が減ってしまいますが、これこそが若さであり生きている証拠なのだと感じることができます。

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■「私はあと2、3日!」

・医療用麻薬に中毒性はない。あるのは副作用で眠気、吐き気、便秘。ほとんど感じない人もいる。少しずつ増やしていくことで、副作用に慣れてくる。しかし、一気に大量投与すると眠ってしまったり、強烈な吐き気や食欲不振に襲われる。ステップなしでいきなり大量投与になってしまう状況というのは、患者さんが痛みを我慢し続け、ついに我慢できなくなったときである。(p67)


 医療用麻薬のイメージも一般には、毒性が強く身体によくない薬物というものなのでしょう。以前の市民公開講座で痛みが痛みを呼ぶこと、痛みから生まれるストレスが回復の妨げになることも聞いたことがありますので、初期の初期からでも痛みをコントロールすることのたいせつさはもっともっと広く知られて欲しいと感じます。

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 当然ながらノンフィクションなのですが、まさにドラマです。人の生と死に関わる話ですからドラマであることが普通なのです。病気や治療や、生や死の話は苦手だという人や、タブー視されて拒絶反応を示される方もおられると思いますし、無理に得ないといけない情報ではないのかもしれません。でも、知っておいて損はないです。

 少子”超”高齢化が劇的に進行している日本において、公的年金や医療費といった社会保障制度の巨額な給付は現在の仕組みのままであればまだまだ増えていくことも明らかです。支え手が減り、受ける側が圧倒的に増えるなかにあって、この本にあるように人の身体が自然に最期を迎えるという手法が、子どもや孫やさらにその下の世代のために実は大きな影響をもたらすのではないかと感じるところもありました。

 壮大な話は自由ですが、この本にはまずは身近に感じることのできる実話が詰まっています。オススメです。
 
 長文を読んでいただいてありがとうございました。


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